ムダイ2

小さな小学四年生以後の頃は、とくに記憶に残った1年だった。
初めて手に取るルノアールに魅せられ、油絵を始めるきっかけとなった。 薔薇色の頬に、豊かな金の波打つ髪と自然の透明感に艶やかな肌。小さな私は、その女性の健康的な柔らかな裸体に美を見つけて一人沈黙しながら 気持ちは踊っていた。
はたから見ると、ひたすら黙っているのでわかりずらいかもしれないが…。そして…レオナルドのデッサン。。初めて天才を知る。
すべての時が緊張した弦のように、はりつめていた。感動した。以前母に見せてもらった明治の手織り刺繍の帯より美しいものを初めて見たのだ。私の中では美のなかに、かすかな闇が感じないといけない奇妙なルールがいつもあった。
それこそが幼少の絵画に対する魔法であり魅力でもあったので。他にも夢中になったのは、知恵の輪、ルービックキューブ、オセロだった。一番強かったのは人生ゲーム、何回やっても億万長者になった。とても不思議なゲームだとその当時思った。なぜか賭事が好きだった。
くだらないゲームになら
強くて、勉強はさっぱりのダメ小学生で勉強をしないので自宅では母にも姉にも叱られてばかりいた。先生にも、絵でしか食べていけないだろうと言われて、素直にそうしようと考えていた。馬鹿とは達が悪いもので、画家を目指すのに学力が将来必要になるとは、考えてもいなかった。数学は死ぬほど嫌いで、病むぐらい腹まで痛くなるぐらい嫌いだった。何度お腹を壊したかしれない、先生ともいつも、喧嘩をしていた。今考えてみると、先生が数学に詳しくない先生だと理解できたが、その頃はそういう考えより 体が逃げるほうへいった。先生が悪いわけじゃなく、将来くる受験やテストの為に暗記テストが多かった。人生の衝撃的な挫折感を味わったのは算数だった。円周率辺りで自宅にあるコップをメジャーで計り現実味がない数字に、また腹が立ちめちゃくちゃ怒ってしまった。全てが嫌になった。いまだに受験がなかったら…違っていたかもとか教科書が違ってたらとか、無駄に色々考えてしまう。ニュースで今年は学力平均で数学 科学の学力levelが下がったという報道が出るたび
に、実はカリキュラムや教え方に工夫があれば、もっと沢山の日本の子供達がスラスラできるんじゃないかとすら考えてしまう。
同じ姉妹でも姉は算数がよくできた。算盤もスポーツも全てに負けていて 自分にガッカリしかできなかった。それでも姉はなぜかあまり途中から、私を馬鹿にしなくなっていった。なんでも器用にこなす姉だったが、ある日一言言われた言葉に驚いた。「なんでそうやって想像して描けるの? 」

そう、真似をすると想像する力は退化してなくなる事を。 その時以来、私は姉と違うんだと…はっきり脳の違いを理解した。
私は見て真似て描く習慣すらなかった。
いつも心にあるものを描いていた。漠然と見えてくる何かを描いていた。 そうしないと、いけない衝動にいつもとりつかれていた。

そんな不器用な子供だったが、周囲は優しい人ばかりだった。狭い世界で生きていたが、幸せな毎日だった。